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日誌76「みんな違ってみんないい」/月光ほろほろ

人にはたくさんの可能性がある。しかし、それがいつどのように現れるかは、誰にも分からない。
人の可能性ですらそうなのだから、犬の可能性は更に分からないだろう。

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いつも不精ヒゲの男、月光ほろほろは歩いていた。
時刻は夕刻、どこからか夕飯の匂いがする。
ここは、わんわん帝國のFVB。
勝手知ったる他国で、ゆっくりと歩いていた。
と、土手を歩くと見知った顔を見つける。
「おぉ、ボロマじゃねぇか」
「あ、月光さんだ」
土手に座って川辺を眺めていたのはボロマールである。
真紅の服を着ている。
「珍しいな、オメェとこんなとこで会うなんて」
「お酒入ってない月光さんの方が珍しいと思いますけど…」
ボロマールの言葉に月光は「違いねぇ」と言ってからからと笑った。
「一服すっか」
月光はそう言うとボロマールの隣に座って懐から緑と白色の箱を取り出すと、そこから煙草を出してくわえた。
「ここ、吸っても良いんですか?」
「ここは解放区だ。灰さえ落とさなきゃ大丈夫」
ボロマールは笑って携帯灰皿と赤い箱を出す。喫煙者の鑑である。
3杯目にはそっと出す居候の身。気は使って悪いものではない。
野郎二人が並んで煙草を吸う姿には、一種の威圧感があった。子供が見たら、避けて歩くだろう。
「不良を発見しましたー通報しますよー」
と、後ろから声。
「ぶはっ!」
驚いてむせた月光が振り向くと、そこには忍湖井レイラインが笑っていた。
「何をやっているんですか?ボロマ様、月光様ー」
端正な童顔をほころばせて、笑うレイライン。
敬称をつけるのは、彼なりの流儀らしい。
「一服ですよ、レイラインさんもどうですか?」
「遠慮します」
にっこり笑顔のレイライン。
「あ、でも川の流れを見るのは付き合いますよー!」
と言ってレイラインは二人の隣に座りこんだ。
…静寂。
風はさやさやと吹き、太陽は地平に沈んでいく。
「そういえば、資格は何か取りましたか?」
おもむろに尋ねるボロマール。
「取ってないですねー」
「取ってねぇな」
秒で返されるボロマール。
「って俺もなんですけど。みんなすごいですね」
「だなぁ。TAKAなんてたくさん取ってるだろ?スゲーよな。レイラインは何か取らないのか?」
「僕は置物ですから…」
少し寂しそうに言うレイライン。
「そんな事はねぇ。」
「そうですよ、レイラインさん!」
「いえ、本当の事ですから…」
レイラインの顔は笑っているが、どこか悲しそうに見える。
心配するボロマール。
良い人は心配事が多い。
難しい顔をした月光が口を開く。
「一つ、こんなおとぎ話がある」
「うは、似合わないですよ月光さん!」
「いいから黙って聞け、ボロマ!
昔々、鳥に憧れた少年がいたんだ。その子は空をはばたきたかった。でも、悲しいことに飛べなかった。落ち込んでいたその子に、母親は言った。『みんな違って、みんな良いのよ』ってさ」
「?」
不思議そうな顔をするボロマールとレイライン。
月光は話を続ける。
「つまり…男の子は空を飛ぶことはできないが、鳥は地面を早くは走れない。男の子は鈴のような綺麗な音はだせないが、鈴よりもたくさんの歌を知っている。みんな違って、みんな良いってさ」
ボロマールとレイラインは神妙な顔で聞いている。
「俺は、人はそういうものだと思う。資格をとって頑張るやつもいれば、資格以外の部分で頑張るやつもいる。感謝こそすれ、比べる必要は無いさ。根源力が人間の価値は決めない。決めちゃいけない。おいしい料理を作るのも、立派な才能だ。一人で何でも出来ないが、たけきの藩国はそうじゃぁない。新国民は、俺達の新しい仲間たちは、きっと今の俺達では出来ないことをするために、火の国の宝剣が遣わしてくれたんだろうさ」
レイラインは笑顔で言う。
「月光様、今その男の子はどうしていると思いますか?」
「さぁな。酒が好きな大人にでもなったんじゃないか?」
ボロマール、笑って煙草に火をつけた。
気付けば日は沈み、月が照らしている。
「月光さん、レイラインさん、呑みに行きませんか?」
顔を見合わせる3人。無言でうなづいて、歩き出す。
美味い酒が、飲めそうだった。

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そしてどうなったかというと…
飲みすぎた月光が歌いだし、脱ぎだし(ボロマールもつられて脱ぎかけた)、レイラインは頭を抱えたという。
可能性は幾方向にも開かれているが、調子に乗るな、という。
今日は、そんな日誌―。


2007-05-05 00:26  nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

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